月末が近づくと「今月の着地はいくらだろう」と考えます。頭の中には進行中の商談がいくつか浮かんでいて、たぶんこれは決まる、これは微妙、あれは来月ずれる——そこまでは分かっているのに、合計いくらになるのかは口に出せない。外注費の支払いが先に出ていく受託では、この「たぶん」の曖昧さがそのまま資金の不安になります。
売上予測は、当てにいく作業ではありません。進行中の商談を金額・確度・着地月の3つで並べ直し、合計を出す作業です。当たるかどうかより、外れたときにどこがずれたかが分かることのほうが大事で、それが分かる形になっていれば予測は毎月自然に精度が上がっていきます。特別なツールがなくても、商談を1行ずつ書き出せるところから始められます。
この記事の要点
- 進行中の商談を1件1行で書き出し、確度はステージ(ヒアリング10%〜内示90%など)に紐づけて機械的に決め、着地月は先方の意思決定の予定から逆算して置く
- 金額×確度を着地月ごとに合計し、「堅い線(確度90%以上)」「予測線」「上振れ線(満額)」の3本で見る
- 受注予測に支払条件を掛けて入金月へずらし、週15分の見直しで2週間動きのない案件に印を付ける

売上予測とは
売上予測とは、進行中の商談それぞれに受注確度と着地月を割り当て、金額を確度で重み付けして合計し、将来の売上を月別に見積もる手法です。「今期いくらになりそうか」を勘ではなく、いま抱えている商談の中身から積み上げて答えるためのものです。
受託の場合、予測の対象は2階建てになります。1階が受注の予測(どの案件がいつ決まるか)、2階が入金の予測(決まった案件のお金がいつ入るか)。この2つは別物で、6月に受注しても入金は8月末ということが普通に起きます。売上予測を資金繰りに使うなら、2階まで作る必要があります。
なぜ受託の売上予測は外れるのか
外れ方には型があります。心当たりのあるものから潰していくのが早道です。
- 着地月を置いていない — 金額と確度は分かっているのに「いつ」がない。合計は出せても月別に割れないので、資金繰りに使えません。
- 確度が気分で動く — 昨日まで50%だった案件が、先方から返信が来ただけで80%になる。基準が言葉になっていないと、予測は担当者の機嫌の記録になります。
- 止まった商談が残り続ける — 3ヶ月前に見積もりを出したきり音沙汰のない案件が、いつまでも「確度50%」で予測に乗っている。予測が実態より常に大きくなる典型です。
- 受注月と入金月を同じにしている — 検収後・翌月末払いといった条件を無視して受注月に売上を立てると、資金繰りの予測が1〜2ヶ月ぶん楽観的になります。
- 既存顧客の継続案件を数えていない — 保守や運用の定額分、毎年発生する更新案件は、新規商談の一覧に出てこないので予測から抜け落ちます。
売上予測の立て方——5つのステップ
ステップ1: 進行中の商談を1行ずつ書き出す
まず「いま動いているもの」を全部並べます。1件につき、顧客名・案件名・想定金額・現在のステージ・次にやること・次のアクション予定日の6項目。ここで漏れやすいのが、まだ見積もりを出していない相談段階の案件と、既存顧客から口頭で聞いている追加案件です。金額が固まっていなくても、レンジの下限で入れておきます。
ステップ2: ステージごとに確度の基準を決める
確度は案件ごとに考えるのではなく、ステージに紐づけて機械的に決めます。次は基準の一例です。業種や自分の受注傾向に合わせて数字は自由に決めて構いません。大事なのは「何が起きたら次のステージに上がるのか」を条件で書いておくことです。
| ステージ | 上がる条件 | 確度の目安 |
|---|---|---|
| ヒアリング | 課題と予算感を聞けた | 10% |
| 提案準備 | 要件が固まり提案日が決まった | 30% |
| 見積もり提出 | 金額を提示し、先方が検討に入った | 50% |
| 条件調整 | 金額・納期の詰めに入った | 70% |
| 内示・発注待ち | 発注の意思表示を受け、書面待ち | 90% |
| 受注 | 発注書・契約を受領した | 100% |
数字そのものに正解はありません。半年ほど運用したら、「50%を付けた案件のうち実際に何件受注できたか」を数えて調整します。これができると予測は自分の実績に合った形に育ちます。商談ステージの切り方は商談管理はエクセルで限界?——カンバン式パイプライン管理のはじめ方で詳しく扱っています。
ステップ3: 着地月を置く
各商談に「受注が決まりそうな月」を入れます。ここは希望ではなく、先方の意思決定の予定から逆算します。稟議のタイミング、決裁者の会議日、年度末——聞けているならそれを使い、聞けていないなら「聞けていない」ことが分かるようにしておきます。着地月が空欄の案件が多いほど、予測はぼやけます。
ステップ4: 重み付けして月別に合計する
金額 × 確度 = 予測額。これを着地月ごとに合計します。
| 案件 | 金額 | 確度 | 予測額 | 着地月 |
|---|---|---|---|---|
| A社 コーポレートサイト | 180万円 | 70% | 126万円 | 9月 |
| B社 LP制作 | 45万円 | 90% | 40.5万円 | 9月 |
| C社 システム改修 | 300万円 | 30% | 90万円 | 10月 |
| D社 保守(継続) | 月8万円 | 100% | 8万円 | 毎月 |
この例なら9月の予測は166.5万円+保守8万円。個々の案件が当たるかどうかは分かりませんが、件数がある程度あれば合計はそこそこ現実に近づきます。逆に商談が3〜4件しかない月は、重み付けの合計より「決まらなかったらどうなるか」のほうが重要になります。
ステップ5: 3本立てで見る
1つの数字だけ見ていると判断を誤ります。次の3つを並べて見ます。
| 見方 | 中身 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 堅い線 | 確度90%以上のみ合計 | 支払い・生活費が回るかの判断 |
| 予測線 | 確度で重み付けした合計 | 通常の月次見通し |
| 上振れ線 | 進行中の全案件の満額合計 | 稼働キャパの確認・外注の手配 |
堅い線が固定費を下回っている月が見えたら、それは新規開拓を増やす合図です。上振れ線が自分の稼働を超えている月が見えたら、それは外注先を先に押さえる合図になります。予測は当てるためでなく、この2つの合図を早く受け取るためにあります。
予測を「入金予定」に変換する
受注予測ができたら、支払条件を掛けて入金月へずらします。受託でよくある条件を並べると、ずれ幅がはっきりします。
| 支払条件 | 6月に受注・7月納品の場合の入金月 |
|---|---|
| 着手金50%+検収後50% | 6月に半分、8月に半分 |
| 検収後・翌月末払い | 8月末 |
| 月末締め翌々月末払い | 9月末 |
| 分割(3ヶ月均等) | 8月・9月・10月 |
一方で外注費の支払いは納品前後に発生することが多く、入金より先に出ていきます。だから受注予測だけを見て「今月は好調」と判断すると足元が抜けます。入金予定と支払予定を突き合わせる考え方はフリーランス・小規模受託の資金繰り管理——入金と支払いを12ヶ月先まで見る方法で詳しく扱っています。
予測の精度を上げる週次の見直し
予測は作った瞬間から古くなります。週に一度、15分でいいので次の4つだけ確認します。
- ステージが動いた案件を更新する — 動いた根拠(先方の言葉・書面)をメモに残す。
- 2週間動きのない案件に印を付ける — 印が2回続いたら、確度を1段下げるか、こちらから確認の連絡を入れる。
- 着地月が今月から来月へずれた案件を数える — ずれが常態化しているなら、確度の基準か着地月の置き方が甘い。
- 失注した案件を予測から外し、理由を残す — 理由の蓄積は次の予測の精度に直結します。記録の仕方は失注分析のやり方を参考にしてください。
特に効くのは2番です。止まった商談を放置しないことが、予測が実態より膨らむのを防ぐいちばん確実な方法です。提出後に止まる案件そのものを減らす打ち手は受注率の上げ方で紹介しています。
スプレッドシートで始めて、限界が来たら仕組みに移す
最初はスプレッドシートで十分です。列は「顧客/案件/金額/ステージ/確度/着地月/次アクション/次アクション日」の8つ。ステージを選ぶと確度が自動で入る程度の関数を組んでおけば、更新の手間はほとんどありません。
限界が来るのは、予測の更新と、案件・外注・入金の管理が別ファイルになったときです。商談シートの確度を直しても、資金繰りシートの入金予定は自動では動きません。同じ案件の情報を2箇所3箇所に書き写しているうちに、どれが最新か分からなくなります。乗り換えの目安は営業リスト管理はスプレッドシートで十分かでも触れています。
確度と金額から月別の見込みと入金予定を自動で出す
ここからは自社製品の紹介です。私たちが作っているPipeliaは受託事業者向けのSFA/CRMで、商談カンバンでステージを動かすと確度が更新され、受注すると案件・外注・粗利へそのままつながります。入金予定と支払予定は資金繰り画面で12ヶ月先まで月別に突き合わされるので、受注予測を入金の山谷として見て、堅い線が薄い月を事前に見つけられます。

立てた予測を月別の予算と並べて差を見る表の作り方は予実管理表をスプレッドシートで作るにまとめています。
よくある質問
商談が数件しかなくても売上予測は意味がありますか?
意味はありますが、見方を変えます。件数が少ないと重み付けの合計はならされず、1件の受注・失注で大きく振れます。この場合は予測額の合計より、「確度90%以上の堅い線だけで固定費を賄えるか」と「いま止まっている案件はどれか」の2点を見てください。予測が薄い月を早めに知ること自体が、新規開拓を前倒しする材料になります。
確度のパーセンテージはどうやって決めればいいですか?
最初は10/30/50/70/90%のような区切りのよい数字で構いません。大事なのは数字の正確さではなく、ステージが上がる条件を言葉で決めておくことです。半年ほど運用したら、各ステージを通過した案件が最終的に何件受注できたかを数え、実績に合わせて数字を寄せていきます。自分の受注傾向から作った数字のほうが、一般的な目安より役に立ちます。
売上予測と資金繰り予測は分けて作るべきですか?
作るのは1つの元データからで構いませんが、見るときは分けてください。売上予測は受注の月、資金繰りは入金の月で並びます。支払条件によっては1〜2ヶ月ずれ、外注費の支払いは入金より先に出ます。同じ商談リストに「着地月」と「入金予定月」の2つの列を持たせておくと、1回の更新で両方が動きます。
