納品は終わって検収も通っているのに、通帳の残高だけが増えない月があります。売上は立っているはずなのに手元がない、という感覚の正体は、たいてい支払サイトです。
支払サイトとは、締め日から実際に代金が支払われるまでの期間のことです。結論を先に書きます。入金サイトが30日延びるたびに、手元から消える金額は月商のちょうど1ヶ月分です。月商300万円なら300万円、月商1,000万円なら1,000万円が、常に売掛金として寝ることになります。
この記事では、その金額を月商別に計算し、外注への支払サイトと組み合わせて「実際にいくら持っていないと回らないのか」を出します。用語そのものの解説は支払いサイトとはにまとめてあるので、ここでは数字だけを扱います。
この記事の要点
- 入金サイトが30日延びると、寝る金額は月商1ヶ月分そのもの。月商300万円なら300万円増える
- 必要な運転資金は「売掛金残高−買掛金残高」。月商300万円・外注比率50%・入金60日・支払30日なら525万円
- 外注比率が100%でない限り、支払を遅らせるより入金を早めるほうが効き目が大きい

支払サイトは何日を指すのか
支払サイトとは、締め日から支払日までの日数のことです。「末日締め翌月末払い」なら、締め日の9月30日から支払日の10月31日までで、支払サイトは30日と数えます。
ただし現場の感覚で効いてくるのは、締め日起点の日数ではなく、納品日から入金までの実日数のほうです。同じ30日サイトでも、9月1日に納品したものは10月31日まで60日待ちますし、9月30日に納品したものは31日で入金されます。案件が月内に散らばるなら、平均でその真ん中あたりになります。
| 支払条件 | 支払サイト(締め日起点) | 納品日から入金までの実日数 | 平均 |
|---|---|---|---|
| 末日締め当月末払い | 0日 | 1〜30日 | 約15日 |
| 末日締め翌月末払い | 30日 | 31〜60日 | 約45日 |
| 20日締め翌月10日払い | 20日 | 21〜50日 | 約35日 |
| 末日締め翌々月末払い | 60日 | 61〜90日 | 約75日 |
| 末日締め翌々々月末払い | 90日 | 91〜120日 | 約105日 |
以下の計算では、この「平均」の列を使います。月商が毎月ほぼ一定で回っている前提なら、売掛金の残高はこの平均日数で決まるからです。
30日と60日で、寝る金額はいくら変わるか
毎月の売上が一定で回っている状態(定常状態)では、売掛金残高は次の式で出ます。
売掛金残高 = 月商 ×(納品から入金までの平均日数 ÷ 30)
30日サイトなら平均45日なので月商の1.5ヶ月分、60日サイトなら平均75日なので2.5ヶ月分です。差は1.0ヶ月分、つまり月商まるまる1ヶ月分になります。
| 月商 | 30日サイト(平均45日) | 60日サイト(平均75日) | 差 |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 150万円 | 250万円 | 100万円 |
| 300万円 | 450万円 | 750万円 | 300万円 |
| 500万円 | 750万円 | 1,250万円 | 500万円 |
| 1,000万円 | 1,500万円 | 2,500万円 | 1,000万円 |
前提は「毎月の売上が一定」「全案件が同じ支払条件」「貸倒れなし」です。実際には案件の大小で月ごとにぶれますが、サイトが30日延びたときの差額が月商1ヶ月分という関係はぶれません。
見積もりの段階で「支払は翌々月末で」と言われたとき、値引きを求められたわけではないので、つい飲んでしまいます。ただ月商300万円の会社にとってそれは、300万円を無利子で貸す約束と同じです。金額に換算してから判断すると、条件交渉の優先順位が変わります。
必要な運転資金は「売掛金−買掛金」で出る
自分が受け取る側だけでなく、外注に払う側も同じ構造です。外注費は最終的に出ていくお金ですが、支払サイトの分だけは手元に残っています。だから、実際に持っていないと回らない金額は差し引きで出ます。
必要運転資金 = 売掛金残高 − 買掛金残高
月商300万円・外注費150万円/月(外注比率50%)で計算すると、こうなります。
| 入金サイト | 外注への支払サイト | 売掛金 | 買掛金 | 必要運転資金 |
|---|---|---|---|---|
| 30日 | 30日 | 450万円 | 225万円 | 225万円 |
| 60日 | 30日 | 750万円 | 225万円 | 525万円 |
| 60日 | 60日 | 750万円 | 375万円 | 375万円 |
| 90日 | 30日 | 1,050万円 | 225万円 | 825万円 |
この表の差の取り方に、実務上いちばん効く事実が出ています。
- 入金サイトが30日延びると、必要運転資金は300万円(月商1ヶ月分)増える
- 外注への支払サイトを30日延ばすと、必要運転資金は150万円(外注費1ヶ月分)減る
外注比率50%の会社では、支払を遅らせても、入金が遅れた分の半分しか埋まりません。外注比率が100%でない限り、この関係は必ず成り立ちます。つまり資金繰りを直す打ち手としては、外注への支払を引き延ばすより、自分の入金を早めるほうが常に効きが大きいということです。外注先との関係を悪くしない、という副次的な理由を持ち出すまでもなく、算数の時点でそうなっています。
案件ごとの粗利が出ていても資金が足りなくなるのはこの差のせいです。粗利そのものの見方は粗利管理のはじめ方に分けて書いています。
入金を30日早めるためにできること
金額の効き目が大きい順に4つ挙げます。
1. 着手金を取る
契約金額の50%を着手時に受け取り、着手から納品まで1ヶ月かかるとします。前半50%の平均待ち日数は45日、後半50%は75日なので、全体の平均は60日です。売掛金は月商×2.0=600万円になり、着手金なしの750万円から150万円減ります。見積もりの書き方は受託の見積もりの作り方にまとめています。
2. 長期案件を月次で分割請求する
3ヶ月の案件を完了時に一括請求すると、着手からの2ヶ月間は売掛金にすら立ちません。売上として認識されないまま外注費と人件費だけが出ていく期間になります。工程の区切りで検収と請求を分ければ、この期間が消えます。
3. 締め日に間に合わせる
月初に納品したものを前月末締めに寄せられれば、最大30日短縮できます。逆に、月末締めの案件を1日遅れて翌月頭に納品すると、入金は丸1ヶ月ずれます。納期の1日は、資金繰りでは30日になり得ます。
4. 請求書を締め日当日に出す
請求漏れが1本あると、その案件だけ入金が1ヶ月遅れます。しかも気づくのは入金の突き合わせをした翌月末なので、実質2ヶ月です。月末の手順は請求・入金管理のやり方に書いています。
外注への支払サイトを延ばす前に確認すること
前の節のとおり、支払を遅らせる効果は入金を早める効果より小さいのですが、それでも延ばしたくなる場面はあります。その前に確認しておくことが2つあります。
1つは法令です。外注先への支払期日には、上限を定めた法律が2つ関わります。
- 取適法(中小受託取引適正化法):2026年1月1日に下請法から改められた法律です。資本金や従業員数で決まる適用対象の取引では、支払期日を発注した物品等の受領日から最長60日以内に定める必要があり、手形での支払いも禁止されました(出典:公正取引委員会「トリテキ法の確認ポイント ー代金編ー」、2026年10月1日確認)
- フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律):2024年11月1日に施行されました。従業員を使っていない個人(や代表者ひとりの法人)に業務を委託する場合、従業員を雇っている発注者は、報酬の支払期日を給付の受領日から60日以内に定めて支払う必要があります(出典:公正取引委員会「フリーランス法 Q&A」、2026年10月1日確認)
受託の外注先には個人のフリーランスが多いので、取適法の対象にならない規模の会社でも、フリーランス法の60日には注意が必要です。先ほどの表のとおり「末日締め翌々月末払い」は納品日から61〜90日かかるので、受領日から60日を超えます。自社がどちらの法律の対象になるかは、上の出典で先に確認してください。
もう1つは単価です。支払サイトを延ばした分の資金負担は外注先に移るので、次の見積もりから単価に乗ってくることがあります。150万円の資金を作るために年間の外注費が数%上がるなら、割に合いません。外注先との条件の整え方は外注管理の方法にまとめています。
12ヶ月先の入金と支払を突き合わせる
ここからは自社製品の紹介です。ここまでの計算は「毎月が一定なら」という前提で成り立っています。受託の実際は、大口が入った翌月に外注費だけが出ていく、といった凸凹があるので、最後は月ごとに並べて確認するしかありません。
私たちが作っている Pipelia は、案件の入金予定と発注の支払予定を月次で12ヶ月先まで突き合わせ、月末残高の推移として表示します。案件を登録した時点で支払条件から入金月が決まり、外注に発注した時点で支払月が決まるので、資金繰り表を別に作る必要がありません。回収・支払の遅延も同じ画面で警告されます。

計算式だけ持ち帰って手元のスプレッドシートで回す場合は、受託・フリーランスの資金繰り管理に月次で並べる手順を書いています。
よくある質問
支払サイトが60日の取引先とは取引しないほうがいいですか?
サイトの長さだけで判断する必要はありません。判断材料は「その取引先の売上が月商に占める割合 × 月商1ヶ月分」で計算できる立て替え額と、それを手元資金でまかなえるかどうかです。月商300万円のうち100万円がその取引先なら、30日サイトの取引先と比べて100万円多く寝るだけなので、手元にその余裕があれば問題になりません。むしろ継続的に発注があるかどうかのほうが影響は大きくなります。
支払サイトは交渉で短くできますか?
取引先の経理の締め処理は全社共通で組まれていることが多く、自社だけ例外にしてもらうのは簡単ではありません。現実的なのは、支払条件そのものではなく請求のタイミングを動かすことです。着手金を設定する、長期案件を工程ごとに分割して請求する、締め日に間に合う納品スケジュールを組む、の3つで、支払条件を変えずに平均待ち日数を短くできます。
必要な運転資金が足りないときは何から手を付ければいいですか?
まず今後12ヶ月の入金予定と支払予定を月ごとに並べ、どの月にいくら足りないかを金額で出してください。足りない月が特定できれば、その月に入金が寄っている案件の着手金化、外注の発注時期の調整、融資の申し込みのどれで埋めるかを選べます。金額と時期が分からないまま借入額を決めると、必要以上に借りるか、足りずに二度手間になります。
