案件が10件を超えたあたりから、どれをいつ請求するのかが頭の中だけでは追えなくなります。納品は終わっているのに請求書を出していない案件。入金予定日を過ぎているのに気づいていない案件。どちらも、案件と請求を1枚で見ていないことが原因です。
案件管理のスプレッドシートとは、案件ごとに進捗・請求・入金を1行で持ち、月末に同じ順番で確認するための表のことです。高機能なツールを入れる前に、まずこの1枚があれば、請求漏れと入金遅延はかなり減らせます。
この記事では、受託事業者が実際に使える列の設計と数式を全部書きます。記事の後半に、そのまま使えるテンプレート(.xlsx。Googleスプレッドシートにもインポートできます)も置いています。
この記事の要点
- 列は17個。手で入れるのは13個で、粗利・粗利率・入金予定日・状況は数式で自動的に決まる
- 支払サイトを選ぶだけで入金予定日が決まり、入金日が空のまま予定日を過ぎると「遅延」に変わる
- 月次サマリーは案件一覧から自動集計する。行を増やしても数式を直す必要はない

列の設計——17列、手で入れるのは13列
列を増やしすぎると埋まらなくなり、減らしすぎると後から遡れなくなります。受託で必要十分なのは次の17列です。
| 列 | 入れるもの | 入力 |
|---|---|---|
| 案件ID | A-001 のような通し番号 | 手 |
| 案件名 | 見積書と同じ名前にする | 手 |
| 取引先 | 請求先の会社名 | 手 |
| ステータス | 商談中/受注/制作中/納品済/検収済/請求済/入金済/失注 | 手(選択) |
| 受注日 | 発注書を受け取った日 | 手 |
| 納品予定日 | 約束した納期 | 手 |
| 検収日 | 合格の返答をもらった日 | 手 |
| 請求予定日 | 請求書を出す日 | 手 |
| 請求額(税抜) | 基本金額+追加作業分 | 手 |
| 外注費 | その案件で協力会社に払う額 | 手 |
| 粗利 | 請求額−外注費 | 自動 |
| 粗利率 | 粗利÷請求額。20%未満は赤字表示 | 自動 |
| 支払サイト | 当月末/翌月末/翌々月末/請求後30日/請求後60日 | 手(選択) |
| 入金予定日 | 請求予定日と支払サイトから計算 | 自動 |
| 入金日 | 実際に入金された日 | 手 |
| 状況 | 予定/遅延/入金済 | 自動 |
| 備考 | 分割請求の回数、追加作業の経緯など | 手 |
ポイントは、日付を4つ持つことです。受注日・納品予定日・検収日・請求予定日を分けておくと、「納品したのに検収が返ってこない」「検収は通ったのに請求していない」がひと目で分かります。1つの日付列にまとめると、ここが見えなくなります。
ステータスと支払サイトは入力規則(プルダウン)にします。手打ちにすると「翌月末」「翌月末払い」「翌月末日」が混在して、数式が効かなくなるためです。
入金予定日を自動で出す
請求予定日(H列)と支払サイト(M列)から、入金予定日(N列)を計算します。2行目の数式は次のとおりです。
=IF(OR($H2="",$M2=""),"",
IF($M2="当月末",EOMONTH($H2,0),
IF($M2="翌月末",EOMONTH($H2,1),
IF($M2="翌々月末",EOMONTH($H2,2),
IF($M2="請求後30日",$H2+30,
IF($M2="請求後60日",$H2+60,""))))))EOMONTH はその月の末日を返す関数です。EOMONTH(請求予定日, 1) で「翌月末」になります。月末が土日でも末日を返すので、銀行の翌営業日まで厳密に出したい場合は WORKDAY を重ねてください。実務では末日で足りることがほとんどです。
支払サイトの考え方そのものは支払いサイトとはにまとめています。取引先ごとに条件が違う場合は、この列を案件単位で変えれば対応できます。
「遅延」を自動で見つける
状況(P列)は、入金日(O列)と入金予定日(N列)から決まります。
=IF($I2="","",IF($O2<>"","入金済",
IF($N2="","",IF($N2<TODAY(),"遅延","予定"))))入金日が入っていれば「入金済」。空のままで入金予定日が今日より前なら「遅延」。それ以外は「予定」です。TODAY() を使っているので、シートを開くたびに自動で切り替わります。
ここが、探しに行かなくても遅延が目に入る仕組みです。請求・入金管理のやり方でも書いたとおり、入金遅延で本当に困るのは遅れたこと自体より、気づくのが遅れることです。
粗利率は =IF(OR($I2="",$I2=0),"",($I2-N($J2))/$I2) で出し、条件付き書式で20%未満を赤字にしています。外注費が空の行でも計算できるよう N() で0に変換しているのが小さな工夫です。
月末にやる4ステップ
列がそろっていれば、月末の作業は4つで終わります。案件20件で30分ほどです。
- ステータスが「検収済」の行に請求予定日を入れる
- 請求書を発行したらステータスを「請求済」にする
- 通帳・入出金明細と照合して、入金があった行に入金日を入れる
- 状況が「遅延」の行だけが残る。これが督促の対象
4番まで来ると、手元には督促すべき案件だけが残ります。フィルタで状況=遅延に絞れば、その月に追うべきものが一覧になります。
月次サマリーで資金繰りにつなげる
2枚目のシートは、案件一覧から自動で集計します。請求予定日の月で「請求予定額・外注費・粗利」を、入金予定日の月で「入金予定額・遅延額」を集計する形です。
=SUMIFS('案件一覧'!$I:$I,'案件一覧'!$H:$H,">="&$A2,'案件一覧'!$H:$H,"<="&EOMONTH($A2,0))列全体($I:$I)を参照しているので、案件を増やしても数式を直す必要はありません。入金予定額が分かると、そのまま資金繰りの入力になります。考え方は受託・フリーランスの資金繰り管理に書いたとおりで、入金予定と外注先への支払予定を並べれば、その月に手元がいくら残るかが見えます。

案件別の粗利をもう少し踏み込んで見たい場合は粗利管理のはじめ方も参考にしてください。
テンプレートのダウンロード
ここまでの列・数式・入力規則・条件付き書式をすべて入れたファイルを置いておきます。入力例が3行だけ入っているので、消して使ってください。
[案件・請求管理テンプレート(.xlsx)をダウンロード](https://pipelia.com/templates/anken-seikyu-kanri-template.xlsx)
シートは3枚です。
- 案件一覧:メインの表。200行まで数式が入っています
- 月次サマリー:12ヶ月分の自動集計
- 使い方:この記事の要約
Googleスプレッドシートで使う場合は、Googleドライブにアップロードして右クリック →「アプリで開く」→「Googleスプレッドシート」で変換してください。数式・入力規則・条件付き書式はそのまま動きます。複製・改変は自由です。
このテンプレートで足りなくなるサイン
スプレッドシートは、案件数が月10件以下で請求条件がほぼ一律なら十分に回ります。限界が見えるのは次のような状態になったときです。
- 案件シートとは別に外注管理の表を作り、同じ金額を2回入力している
- 協力会社への支払予定が別ファイルにあり、入金と突き合わせるのに毎回コピーしている
- 過去の案件が増えて、フィルタをかけないと今月の行にたどり着けない
このあたりから、転記ミスと更新漏れのほうが管理コストを上回ってきます。同じ数字を2箇所以上に書いている時点で、いつかずれます。判断の目安は営業リスト管理はスプレッドシートで十分かにも書きました。
同じ管理をNotionで作る場合は、案件・取引先・発注の3つのデータベースに分け、外注費をロールアップで合計する形になります。プロパティ設計とコピーして使える数式はNotionで受託の案件管理を作るにまとめました。
ここからは自社製品の紹介です。私たちが作っている Pipelia は、この表の内容——案件・請求・入金予定・外注費・粗利——を二重入力なしで持てるようにした受託事業者向けのSFA/CRMです。登録不要のデモで実際のデータが入った画面を触れます。
よくある質問
Googleスプレッドシートでも使えますか?
使えます。Googleドライブにファイルをアップロードし、右クリックから「アプリで開く」→「Googleスプレッドシート」を選ぶと変換されます。使用している関数は EOMONTH・SUMIFS・TODAY・IF など標準的なものだけなので、変換後もそのまま動きます。プルダウン(入力規則)と、粗利率20%未満を赤字にする条件付き書式も引き継がれます。
消費税や源泉徴収はどう扱いますか?
テンプレートの請求額は税抜で持っています。粗利と粗利率を税抜で見るためで、消費税を混ぜると案件同士の比較ができなくなるためです。税込の入金額と突き合わせたい場合は、請求額の右に「消費税」「税込額」の2列を挿入し、税込額=請求額×1.1 の数式を入れてください。1.1は標準税率10%の場合で、軽減税率8%は飲食料品や新聞などに限られるため、受託の制作費は通常10%です(出典:国税庁「No.6303 消費税および地方消費税の税率」、2026年10月1日確認)。源泉徴収がある取引は、備考欄に控除額を書いておくと入金額のズレを追えます。
案件が200行を超えたらどうすればいいですか?
200行目を選んで下方向にドラッグコピーすれば、数式・入力規則・条件付き書式がそのまま引き継がれます。月次サマリー側は列全体を参照しているので変更は不要です。ただし行数が増えるほど、過去案件を探す時間と更新漏れが増えていきます。年度ごとにシートを分けるか、案件と請求を紐付けて管理できるツールへの移行を検討する目安にしてください。
