納品して、請求書を送って、入金を確認する。その案件はそこで終わりです。翌月のカレンダーを開くと、まだ何も入っていない週がある。案件が途切れれば売上もゼロになる——受託でずっと消えないこの不安の正体は、収入のすべてが単発の受注に紐づいていることです。
この不安を小さくする現実的な方法は、納品済みのサイトやシステムに月額の保守・運用契約をつけることです。1件あたりの金額は小さくても、契約が積み上がれば毎月決まった日に決まった額が入る土台になり、12ヶ月先までの資金繰りが読めるようになります。新しく営業をかけずに増やせる売上としては、いちばん近いところにあります。
ただし、範囲を決めずに始めると赤字のもとになります。「何かあったら見ます」で契約すると、月額の中で無制限に作業を引き受けることになるからです。保守契約で最初に決めるべきなのは、金額より先に「含む作業」と「含まない作業」の線引きです。
この記事の要点
- 保守の作業は「定額で含む(監視・更新・障害の一次対応)」「時間上限つきで含む(差し替え・軽微な修正、月2時間までなど)」「含まない(新規ページ・機能追加)」の3つに仕分けてから金額を決める
- 月額は想定工数(例:月計4時間)×自社の時間単価で積み上げ、最初の3ヶ月の実績で見直す
- 提案は納品の直前に2プランで出し、初回は6ヶ月契約から。毎月のレポートで作業内容と上限の残り時間を知らせる

保守・運用契約とは——受託にとって何が変わるのか
保守・運用契約とは、納品後のサイトやシステムを継続的に維持するために、作業範囲と月額(または年額)をあらかじめ決めて結ぶ契約です。障害の一次対応やバックアップのような「守り」の作業と、更新代行や軽微な修正のような「運用」の作業を、都度見積もりではなく定額でまとめて引き受ける形を指します。
受託の売上の作り方から見ると、変わるのは2点です。1つは、売上が受注のタイミングに左右されにくくなること。もう1つは、顧客との接点が毎月生まれることです。後者は次の案件の入口にもなります。既存顧客からの追加案件の拾い方はリピート受注を増やす方法にまとめました。
なぜ月額契約が資金繰りを安定させるのか
受託の資金繰りが読みにくいのは、入金が検収のタイミングにまとまって発生するからです。3ヶ月の案件なら、着手金と納品後の入金の間に、外注費と自分の生活費だけが出ていく期間ができます。案件を並べ替えても、この谷は完全にはなくなりません。
保守契約には、この谷を浅くする性質があります。
- 金額が毎月同じなので、12ヶ月先まで入金予定として置ける
- 解約されない限り続くので、予測の確度が単発の商談より高い
- 請求日と入金日が固定されるので、外注費の支払時期と合わせやすい
つまり保守契約は、売上を増やす施策であると同時に、予測を立てやすくする施策でもあります。入金と支払の突き合わせ方は資金繰り管理の方法を参照してください。

保守契約に含める作業範囲の決め方
契約書に書く前に、作業を3つに仕分けます。ここを曖昧にしたまま金額だけ決めると、あとからもめる原因になります。
| 区分 | 作業の例 | 扱い |
|---|---|---|
| 含む(定額) | 稼働監視、バックアップ、CMS・プラグインの更新、障害の一次対応、月次レポート | 月額に含める |
| 含む(時間上限つき) | テキスト・画像の差し替え、既存ページの軽微な修正 | 月◯時間まで。超過分は都度見積もり |
| 含まない | 新規ページの追加、デザイン変更、機能追加、他社が作った箇所の改修 | 都度見積もり |
要は、真ん中の「時間上限つき」を作れるかどうかです。ここがないと、依頼が来るたびに「これは保守の範囲か」を判断することになり、断りにくい相手ほど無償対応が増えていきます。「月2時間まで」のように上限を数字で決めておけば、超えたときに見積もりを出すのが自然な流れになります。
上限の残り時間を毎月の報告に書いておくと、顧客側も「今月はあと1時間ある」と考えて依頼をまとめてくれるようになります。上限は制限ではなく、双方の目安として機能させるのが続けるコツです。
月額料金の決め方——工数から積み上げる4ステップ
- 毎月発生する作業の時間を数える(更新確認、バックアップ確認、レポート作成)
- 依頼で発生する作業の上限時間を決める(月◯時間まで、と先に決めてから足す)
- 自社の時間単価を掛ける(案件で使っている単価と同じ基準にそろえる)
- 障害対応の備えを上乗せする(毎月は起きないが、起きたときに赤字にならない分)
工数の積み上げは、たとえば次のような形になります。
| 項目 | 月あたりの想定工数 |
|---|---|
| 更新・バックアップの確認 | 1.0時間 |
| 月次レポートの作成 | 0.5時間 |
| 依頼対応(上限2時間) | 2.0時間 |
| 障害対応の備え | 0.5時間 |
| 合計 | 4.0時間 |
※ 上の数字は考え方を示すための例です。実際の工数はサイトの規模と顧客の依頼量で変わるので、最初の3ヶ月は実際にかかった時間を記録して見直してください。
他社の金額を見て決めるより、自社の工数から積み上げるほうが、あとで説明できる金額になります。時間単価そのものの決め方は受託の見積もりの作り方と単価を上げる方法で扱っています。
既存顧客に保守契約を提案する切り出し方
- 提案は納品の直前に行う。納品後に改めて連絡すると「追加で売りに来た」と受け取られます。検収前なら、運用の話として自然につながります
- 「保険」ではなく「実際に起きること」で説明する。CMSやプラグインの更新、SSL証明書の期限、問い合わせフォームの停止。放置すると何が起きるかを具体的に伝えます
- プランは2つに絞る。3つ以上あると比較が長引きます。「監視と更新まで」「更新+月2時間の修正まで」の2択が分かりやすい形です
- 初回は短い期間から始める。6ヶ月契約で始めて、実績を見て年間契約に切り替える流れなら、相手も決めやすくなります
- 断られたときの条件も渡しておく。「保守なしの場合、修正のご依頼は都度見積もり・着手まで◯営業日」と伝えておくと、後から契約に戻ってくることがあります
提案の記録は顧客ごとに残しておきます。「去年は断られたが、担当者が代わった」といった経緯が見えると、再提案のタイミングを外しません(顧客管理のやり方)。
契約を続けるための運用——「何もなかった月」をどう見せるか
保守契約が解約される理由の多くは、トラブルではなく「払っている意味が見えなくなること」です。障害が起きない月ほど、顧客からは何もしていないように見えます。
対策はシンプルで、月次のレポートを1枚出すことです。内容は3行で足ります。
- 今月実施した作業(更新の件数、バックアップの確認結果)
- 検知して対応した事象(なければ「異常なし」と書く)
- 依頼対応の使用時間と残り時間
「異常なし」と書かれた記録が毎月届いていること自体が、契約の根拠になります。逆に、何も送らない月が続くと、コスト見直しのときに真っ先に候補に挙がります。
保守契約で赤字になりやすい3つのパターン
「軽微な修正」の解釈がずれている:発注側は1ページの作り直しを軽微だと思っていることがあります。時間で線を引く(1回30分以内など)と、解釈の幅が狭まります。
上限時間を誰も数えていない:作業した時間を記録していないと、超過分の請求ができません。案件と同じように、保守も工数を記録する対象にします。
契約時から状況が変わっている:ページが増えた、機能が追加された、なのに月額は3年前のまま。年に1回、工数の実績を見て金額を見直す時期を決めておきます。粗利率で判断する方法は粗利管理のはじめ方で解説しています。

保守契約の入金を12ヶ月先まで見通す
ここからは自社製品の紹介です。Pipeliaでは保守契約も1つの案件として扱えるので、月額の売上と外注費から粗利率が自動で計算され、粗利率20%未満の「割に合っていない保守」には警告が出ます。入金予定と支払予定は月次で12ヶ月先まで突き合わせられ、ダッシュボードでは単発の案件と継続の契約を同じ画面で見られるので、「来月の売上のうち、どこまでが確定しているか」を把握しやすくなります。

結んだ契約の更新日・作業時間の上限・毎月の請求をスプレッドシートで管理する方法は保守契約の管理表をスプレッドシートで作るにまとめています。
よくある質問
保守契約の月額はいくらが相場ですか?
一律の相場を挙げることはできません。対象がコーポレートサイトか業務システムかで作業量が大きく違い、同じ規模でも顧客の依頼頻度で変わるためです。この記事の4ステップのように、自社の想定工数×時間単価で積み上げるのが確実です。他社の金額を基準にすると、根拠を聞かれたときに説明できなくなります。
保守契約は何ヶ月単位で結ぶのがいいですか?
初回は6ヶ月、以降は1年の自動更新(解約は1ヶ月前までに申し出)という形が扱いやすい単位です。初回を短くするのは、実際の工数が見えるまで金額を確定させないためです。3ヶ月ほど運用すれば依頼量の傾向が分かるので、更新のタイミングで金額と上限時間を調整できます。
他社が作ったサイトの保守を引き受けても大丈夫ですか?
引き受ける前に調査の時間を取ってください。構造やドキュメントが分からない、サーバーやCMSの管理権限をもらえない、といった状態のまま定額で引き受けると、最初の障害で赤字になります。現実的なのは、まず有償で現状調査を行い、その結果を見て保守契約の金額と範囲を決める二段構えです。調査で問題が多く見つかった場合は、改修を先に提案する判断もあります。
