「去年より忙しいのに、手元に残るお金は増えていない」。受託で単価を上げたいと思うきっかけは、たいてい繁忙感そのものではなく、月末や決算で数字を見たときの違和感です。

結論から言うと、受託の単価アップで効くのは「全社一律で何%値上げする」と決めることではなく、粗利率の低い案件から順に、根拠を添えて個別に価格を見直すことです。順番は、(1) 案件ごとの粗利率を出す、(2) 低い案件の原因を「見積もりが甘い/作業が増えた/外注費が上がった」に分ける、(3) 原因ごとに打ち手を変える、の3つ。値上げ交渉はこの3番目に来る選択肢のひとつであって、最初の一手ではありません。

もうひとつ大事なのは、単価は「次の契約」で上げるほうがずっと通しやすいという点です。進行中の案件の途中で価格を変えるのは相手にとっても社内稟議の手間が大きく、断られやすい。更新・追加発注・新規見積もりのタイミングを待って切り出すだけで、通る確率は変わります。

この記事の要点

  • 単価を上げる対象は、案件単価ではなく粗利率(粗利÷受注金額)で並べ、自社の平均を下回る案件から選ぶ
  • 原因を「見積もりが甘い/作業が増えた/外注費が上がった」に分け、無償作業の書き戻しや修正回数の区切りなど、相手の負担が軽い打ち手から試す
  • 価格改定の申し入れは契約更新・追加発注のタイミングで、改定幅・適用時期・内訳を添えて口頭で先に伝える
受託の単価を上げる手順を3段階で示した図。案件別の粗利率で対象を選んで原因を3つに分け、無償作業の書き戻しや範囲の区切りを先に試し、次の契約で価格改定を申し入れて断られたら続ける・絞る・縮小を判断する流れが確認できる

受託の「単価を上げる」とは何を上げることか

受託における単価アップとは、案件の請求額そのものを上げることではなく、投じた時間あたりに手元へ残る粗利を増やすことです。請求額が上がっても、その分だけ作業量や外注費が増えていれば、実質的な単価は1円も上がっていません。

だから見るべき数字は3つあります。

指標計算式見るとわかること
案件単価受注金額取引の規模。上がっても粗利が増えるとは限らない
粗利受注金額 − 外注費案件そのものから残った額
粗利率粗利 ÷ 受注金額同規模の案件どうしを比べられる。値上げ対象を選ぶ指標

単価アップの議論をするときは、案件単価ではなく粗利率で並べ替えるのが出発点です。粗利の出し方そのものが曖昧な場合は、粗利管理のはじめ方を先に読んで、案件別に粗利率を出せる状態にしてください。

なぜ受託の単価は上がらないのか——ありがちな4つの原因

  1. 前回と同じ金額で見積もってしまう。同じ取引先から似た依頼が来ると、前回の見積書をコピーして金額だけ据え置く。作業範囲は少しずつ増えているのに、価格だけが固定されます。
  2. 無償対応が積み上がっている。「ついでに直しておきました」が数回続くと、それは次から前提の作業範囲になります。値上げ以前に、いま何を無償でやっているかを把握できていないケースが多い。
  3. 外注費の上昇を転嫁していない。協力会社の単価が上がっても、自社の請求額は据え置き。粗利率だけが静かに下がります。
  4. 根拠を言葉にできない。「そろそろ上げたい」だけでは相手も社内を通せません。何がどれだけ増えたのかを示せるかどうかが分かれ目です。

原因が1〜3のどれなのかで、打ち手はまったく変わります。まとめて「値上げ交渉」にしないことが重要です。

値上げの前に確かめる3つの数字

交渉の前に、次の3つを埋めてください。ここが埋まらないうちに切り出すと、たいてい「では今回は据え置きで」で終わります。

確かめること具体的に見る数字判断の目安
その案件はいくら残っているか案件別の粗利率自社の平均粗利率を下回っているか
なぜ下がったか当初見積もりの想定作業と、実際にやった作業の差増えた作業を項目で書き出せるか
その取引先は続けたいか取引の継続性・支払いの速さ・追加案件の有無単価だけで判断しない

3つ目を軽視しないでください。粗利率が低くても、支払いが早く、毎月安定して発注があり、紹介につながっている取引先は、資金繰りの面で価値があります。逆に粗利率が低いうえに入金も遅い案件は、単価と回収の両方が問題です(資金繰り管理の考え方)。

受託が単価を上げる5つの打ち手

値上げ交渉は5つのうちのひとつです。上から順に、相手の負担が軽く通しやすい順に並べています。

  1. 無償でやっている作業を見積もりに書き戻す。金額を上げるのではなく、これまで書いていなかった作業を項目として明示します。総額は上がりますが「値上げ」ではなく「範囲の明確化」なので、相手も納得しやすい。
  2. 作業範囲と回数を契約で区切る。修正は2回まで、それ以降は別途、と最初に決める。これは単価を上げる打ち手であると同時に、次の案件から粗利率が下がるのを防ぐ打ち手でもあります。
  3. 見積もりを粗利から逆算する形に変える。原価を積み上げて利益を乗せるのではなく、確保したい粗利率から必要な請求額を出す。詳しくは受託の見積もりの作り方にまとめています。案件ごとに毎回考えずに済むよう、工程別の標準単価を一覧にしておくのも有効です(受託の単価表の作り方)。
  4. 外注費の上昇分を転嫁する。協力会社の単価が上がった事実は、自社都合ではないぶん説明しやすい根拠です。いつ・どの工程が・いくら上がったかを示せる状態にしておきます。
  5. 既存の取引先に価格改定を申し入れる。もっとも重い打ち手。1〜4を試したうえで、それでも粗利率が戻らない取引先に対して行います。

新規の案件については、そもそも最初から適正な価格を出せるかどうかの話になります。提案が価格で崩れているのか、別の理由で止まっているのかは、失注分析で切り分けてください。

既存の取引先に値上げを切り出す手順

順番はこうです。

  1. タイミングを選ぶ。契約更新、次年度の予算策定前、追加案件の見積もり依頼が来た時。進行中の案件の途中は避けます。
  2. 改定幅と適用時期を先に決める。「次回発注分から」「4月着手分から」と時期を明示する。相手が社内で調整できる余地を残します。
  3. 根拠を数字と項目で用意する。増えた作業の内訳、外注費の変動、対応回数の実績。感覚ではなく、書き出せる形にします。
  4. 文面ではなく口頭で先に伝える。メールだけで送ると、相手の担当者は上長へ転送するだけになり、こちらの意図が伝わりません。打ち合わせや電話で背景を話し、その後に文面で正式に送ります。
  5. 代替案を1つ添える。金額を据え置くかわりに作業範囲を絞る案を用意しておくと、断られてもゼロ回答になりません。

切り出しの文面は、次のくらいの温度感で十分です。

いつもご依頼ありがとうございます。ご相談なのですが、ここ半年ほど当初の想定より対応範囲が広がっており、現在の金額では継続が難しくなってきました。つきましては次回のご発注分から、料金を見直させていただきたく考えております。内訳をまとめましたので、一度お時間をいただけないでしょうか。

謝りすぎない、理由を相手のせいにしない、時期を明示する。この3つを守れば、文面そのものに凝る必要はありません。

なお、発注側が一定規模以上の事業者で、取引が中小受託取引適正化法(取適法)の対象になる場合、発注側が受注側との協議に応じずに一方的に代金を決めることは禁止されています(出典:公正取引委員会「取適法の概要」、2026年10月1日確認)。価格の見直しを相談すること自体は、受注側の正当な申し入れです。

値上げを断られたら、どう判断するか

断られること自体は失敗ではありません。判断すべきは「その取引を今の条件で続けるか」です。

  • 続ける:粗利率は低いが、支払いが早く、稼働の谷を埋めてくれている。他案件の合間に回せる。
  • 範囲を絞って続ける:金額は据え置き、対応範囲・回数を契約どおりに戻す。実質的な時間単価は上がります。
  • 縮小する:新規の受注は止め、進行中のぶんだけ完了させる。空いた時間を単価の高い案件や新規開拓に回す。

3つ目を選べるかどうかは、代わりの案件が見えているかにかかっています。だから単価アップの取り組みは、営業リストの手入れとセットで進めるほうがうまくいきます。既存客からの追加案件を取りこぼさない仕組みについてはリピート受注を増やす方法も参考にしてください。

値上げの判断材料を粗利から取り出す

ここからは自社製品の紹介です。私たちが作っているPipeliaの粗利画面では、売上から外注費を引いた粗利を案件別に自動計算し、粗利率・月次推移・平均粗利率を並べて表示します。粗利率が20%を下回った案件には警告が出るので、「どの案件から価格を見直すか」を並べ替えるだけで決められます。外注費は発注ごとに記録されるので、どの工程がいくら上がったかもそのまま根拠として持ち出せます。

Pipeliaの粗利画面。案件別の粗利率と月次推移が一覧で表示され、粗利率20%未満の案件に警告が出ている

よくある質問

値上げは何%くらいが妥当ですか?

一律の正解はありません。決め方としては、確保したい粗利率から逆算するのが実務的です。目標粗利率を決め、現在の外注費と作業実績を当てはめて必要な請求額を出し、そこから改定幅を導きます。「相場が上がっているので」といった外部要因だけを根拠にすると、内訳を聞かれたときに答えられなくなります。

全部の取引先にまとめて値上げを伝えてもいいですか?

おすすめしません。取引先ごとに粗利率も継続性も違うため、必要のない相手にまで交渉のコストと関係悪化のリスクを負うことになります。粗利率が自社平均を下回っている案件から順に、個別に切り出してください。一斉通知が向くのは、価格表が公開されている定型サービスの場合です。

単価を上げると受注が減りませんか?

減る前提で、代わりの案件を用意しておくのが現実的な備えです。値上げの検討と同時に営業リストを見直し、再連絡すべき見込み客を洗い出しておくと、断られたときに「では縮小する」という判断が取れるようになります。単価の話と新規開拓の話を別々に進めると、いつまでも今の条件から動けません。