見積もりを出すたびに「この金額でいいのか」と手が止まる。忙しい月は強気に、暇な月は弱気に出してしまい、あとから見返しても何を基準にしたのか分からない。値付けが毎回ゼロからになっているとき、足りないのは度胸ではなく単価表です。

単価表とは、工程や職種ごとの標準単価と想定工数を一覧にした、自社の値付けの基準表です。作り方の結論を先に書きます。外の相場を写すのではなく、自分の固定費と目標利益から必要月商を出し、それを請求できる稼働時間で割って基準時間単価を求め、工程ごとの係数で並べます。 相場から作った表は自分の原価構造とつながっていないため、守る理由がなく、結局その場の判断に戻ってしまいます。

この記事では1〜数名の受託事業者を前提に、基準時間単価の逆算、工程別の並べ方、表に載せる列、改定の基準までを順に書きます。記事中の金額はすべて計算例です。固定費・目標利益・稼働時間を自分の数字に置き換えて計算してください。

この記事の要点

  • 単価表は相場ではなく「必要月商 ÷ 請求可能時間」から作る
  • 間接業務の比率が10ポイント増えるごとに、必要な時間単価は700〜1,300円上がる
  • 標準単価の2割引きは粗利率を14ポイント削る。値引きより先に範囲を削る
単価表の作り方を示した図。固定費25万円と目標利益60万円から必要月商85万円を出し、間接業務30%を除いた請求可能時間112時間で割って基準時間単価7,600円を求め、工程別の係数をかけて工程別単価にする流れが確認できる

相場から作った単価表が守られない理由

単価表が機能しないのは、たいてい中身ではなく出どころの問題です。同業のサイトや知人から聞いた金額を並べた表は、他社の固定費・他社の稼働率・他社の得意分野の結果であって、自分がその金額で食べていけるかどうかとは関係がありません。根拠が外にあるので、値引きを求められたときに「うちはこの金額です」と言い切る材料になりません。

逆に、自分の固定費と目標利益から逆算した単価表には、下げられない理由がそのまま入っています。「ここから2割引くと、月の目標に12万円届かない」と数字で言えるので、受けるか断るかの判断が感情から離れます。受託の単価を上げる方法でも書いたとおり、値上げを切り出せるかどうかは交渉術より先に、根拠を自分の側に持っているかで決まります。

基準となる時間単価を逆算する

まず、案件の種類に関係なく共通の「基準時間単価」を1つ決めます。手順は3ステップです。

  1. 必要月商を出す。固定費(家賃・通信・ツール・保険・税金の積立など)+ 目標利益。外注を使う場合は外注費も足す
  2. 請求可能時間を出す。月の稼働時間から、営業・見積もり・請求・打ち合わせ・学習といった請求できない時間を引く
  3. 必要月商 ÷ 請求可能時間 で基準時間単価を出す

1人・外注なしで、固定費25万円、目標利益60万円、月20日×8時間=160時間、うち間接業務が30%というケースで計算すると、必要月商85万円 ÷ 請求可能時間112時間 = 7,589円。端数を丸めて基準時間単価は8,000円になります。

目標を変えると基準はこう動きます。

必要月商(固定費+目標利益)請求可能時間基準時間単価
60万円112時間5,400円
85万円112時間7,600円
120万円112時間10,700円

ここで出た数字が高く感じるなら、それは値付けの問題ではなく、目標利益か固定費か稼働時間のどれかが現実と合っていないという合図です。単価表を作る前に、その3つを先に直します。

間接業務の比率で必要な時間単価はどれだけ変わるか

単価表の議論で抜けやすいのが、請求できない時間です。同じ月商85万円を目標にしても、間接業務の比率が違えば必要な時間単価は変わります。

間接業務の比率請求可能時間/月必要な時間単価
10%144時間5,900円
20%128時間6,600円
30%112時間7,600円
40%96時間8,900円

比率が10ポイント増えるごとに、必要な時間単価は700〜1,300円上がります。営業や事務に時間を取られている人ほど、実は高い単価を出さないと目標に届かない、という関係です。ここを見ないまま「周りと同じくらいの金額」で出していると、稼働は埋まっているのに残らない月が続きます。稼働の実態は受託の稼働管理のやり方の考え方で先に把握しておくと、この表の比率を推測で決めずに済みます。

工程別・職種別の単価を係数で並べる

基準時間単価が決まったら、工程ごとに係数をかけて並べます。全工程を同じ単価にしないのは、工程によって代わりが見つかる難しさが違うからです。代わりが効きにくい工程(要件定義、サーバー、緊急対応)は係数を高く、代わりが効きやすい工程は基準に寄せます。

基準時間単価8,000円で並べた例です。

工程・職種係数時間単価1日(8時間)換算
要件定義・ディレクション1.310,400円83,200円
デザイン1.18,800円70,400円
コーディング(HTML/CSS)1.08,000円64,000円
フロント実装(JavaScript)1.29,600円76,800円
サーバー・バックエンド1.310,400円83,200円
スポット修正・緊急対応1.512,000円96,000円

係数の数字そのものに正解はありません。決め方の基準は2つで、代わりが効きにくい工程は上げる、自分が速い工程は上げる(速いほど時間単価を上げないと同じ売上にならないため)です。逆に、学習のために受けている工程は基準以下にしても構いませんが、その場合は単価表に「習熟のため期間限定」と但し書きを入れて、期限を切ります。

単価表に載せる8つの列

単価表は金額の列だけでは足りません。追加対応でもめるのも、値引き後に粗利が消えるのも、金額以外の列がないことが原因です。次の8列で作ります。

列記入例何のためにあるか
項目名トップページデザイン見積書にそのまま転記できる粒度にする
単位1ページ「1式」が減るほど追加交渉が楽になる
標準単価70,000円通常はこの金額で出す
想定工数8時間標準単価 ÷ 想定工数=8,750円。基準時間単価と照合する
最低ライン56,000円標準の80%。これ以下は受けないと先に決めておく
含むもの初稿+修正2回何をしたら追加費用になるかの線引き
含まないもの撮影・原稿作成・素材購入見積書の「含まないもの」欄にそのまま使う
外注時の原価40,000円粗利率を確認するための列

この例で粗利を計算すると、標準単価で受けた場合は 70,000円 − 40,000円 = 30,000円で粗利率42.9%。最低ラインの56,000円で受けると 16,000円で粗利率28.6%です。売上を2割引いただけで、粗利率は14ポイント落ちます。 外注原価は値引きに連動しないので、この落ち方になります。目安となる粗利率はWeb制作の粗利率の目安にまとめています。

作った表は、そのまま見積書の項目行として使える形にしておきます。見積書側のフォーマットはエクセルの見積書テンプレート、積算の考え方は受託の見積もりの作り方が対応します。

単価表を改定する3つの基準

単価表は作って終わりではありませんが、毎回いじると基準になりません。改定するのは次の3つが起きたときだけにします。

  1. 受注率が8割を超えた。出した見積もりがほぼ通る状態は、単価が市場より低い合図です。通らなくなる手前まで上げる余地があります。逆に受注率が低いときは、単価の前に提案内容を疑います(失注分析のやり方)
  2. 粗利率の下限割れが3件続いた。想定工数より実工数が増えている場合は単価ではなく工数見積もりを、外注原価が上がっている場合は単価を直します
  3. 外注の原価が上がった。「外注時の原価」列を先に更新し、粗利率が下限を切る項目の標準単価を連動させます(外注管理の方法)

何も起きなくても、年1回は期首に固定費と目標利益を入れ直し、基準時間単価から計算し直します。固定費は静かに増えているので、単価だけが据え置かれると粗利が痩せていきます。

単価表どおりに出せないときに削る順番

予算が合わないときに最初に値引きへ行くと、単価表は1回で意味を失います。削る順番を先に決めておきます。

  1. 範囲を削る(ページ数、機能、修正回数を減らす)
  2. こちらの手間が減る条件に変える(原稿・素材の支給、確認窓口の一本化)
  3. 納期を延ばす(稼働の谷に入れられるなら、こちらの都合としては利益になる)
  4. 支払条件を前倒しにする(着手金50%など。金額が同じでも資金繰りは改善する)
  5. それでも合わなければ断る(受託で案件を断る基準)

表の単価そのものは下げません。一度下げた金額は記録として相手に残り、次の案件でも同じ金額が基準になります。下げるとしても「今回は範囲をここまでに絞ったのでこの金額」という形にして、単価ではなく数量で調整します。

見積もりと粗利を同じデータでつなぐ

ここからは自社製品の紹介です。私たちが作っている Pipelia は受託事業者向けのSFA/CRMで、商談・受注した案件と、その案件に紐づく発注(外注費)が同じデータでつながっています。単価表で決めた金額で受注し、実際の外注費を発注として登録すると、案件ごとの粗利と粗利率が自動で更新されます。粗利率が20%を下回った案件には警告が出るので、「単価表どおりに出したつもりが、実際は下限を割っていた」を後から拾えます。

Pipeliaの粗利画面。案件別の粗利率と月次推移、平均粗利率が一覧で確認でき、粗利率20%未満の案件に警告が表示されている

改定の基準にした受注率も、商談をカンバンで管理していれば提出件数と受注件数がそのまま出ます。

Pipeliaの商談カンバン画面。ステージごとに商談が並び、確度と金額が確認できる

登録もメールアドレスも不要で触れるデモをdemo.pipelia.comに置いています。

よくある質問

単価表はお客様に見せたほうがいいですか?

全部を見せる必要はありませんが、標準単価と「含むもの・含まないもの」は見せたほうが話が早く進みます。最低ラインと外注時の原価は社内用の列なので、顧客に渡す版からは外してください。範囲が先に共有されていれば、追加対応の請求が後出しに見えなくなります。

単価表は何年ごとに見直せばいいですか?

期間で決めるより、受注率が8割を超えた・粗利率の下限割れが続いた・外注の原価が上がった、のいずれかが起きたときに見直すほうが実態に合います。そのうえで、何も起きなくても年1回は期首に固定費と目標利益を入れ直し、基準時間単価から計算し直してください。

外注に出す工程の単価はどう決めればいいですか?

外注に出す工程も自社の標準単価で見積もり、単価表の「外注時の原価」列に実際の発注額を入れて粗利率を確認します。外注費が標準単価の7割を超える工程は粗利率が30%を切るので、標準単価を上げるか、その工程は受けないという判断が必要になります。