年商は去年と同じくらいなのに、今年のほうが明らかに忙しい。あるいは、去年より楽なのに数字は変わらない。受託でこの感覚のズレが起きるとき、たいていは売上の合計ではなく、案件1件あたりの金額の散らばり方が変わっています。

単価分布とは、受注した案件を金額の階級ごとに数えて、どの価格帯に何件・いくら集まっているかを見たものです。結論を先に書きます。年商が同じでも、小口中心と大口中心では「必要な打ち手」がまったく別物になります。 小口中心は事務量と商談数が効き、大口中心は1件の失注と入金遅れが効きます。どちらが正しいという話ではなく、自分がどちらに寄っているかを知らないまま対策を打つと、効かないところに時間を使うことになります。

この記事では、年商600万円を例に小口・中口・大口の3パターンを並べ、失注の影響、事務の回数、必要な商談数を計算で比べます。数字はすべて計算例なので、自社の受注データに置き換えて使ってください。

この記事の要点

  • 年商が同じでも、1件失注したときの落ち込みは3%から50%まで変わる
  • 小口中心は大口中心より、事務だけで年56時間(丸7日ぶん)多くかかる
  • 自社の分布は、受注案件を金額順に並べて階級ごとに数えるだけで出せる
受託案件の単価分布を示した図。小口中心(20万円×30件)と大口中心(300万円×2件)はどちらも年商600万円になるが、小口は見積・請求が年60本で1件失注しても年商の3%、大口は年4本で1件失注すると年商が半分になることが確認できる

平均単価だけでは判断できない理由

「うちの平均単価は60万円くらい」という言い方は、実態をほとんど表しません。300万円が1件と15万円が19件でも、60万円が10件でも、平均はだいたい同じところに来ます。平均が同じでも、前者は1件の案件に半分を預けていて、後者は19件ぶんの見積もりと請求を毎年こなしています。

見るべきは平均ではなく分布です。具体的には次の3つが分かれば十分です。

  1. 金額の階級ごとの件数
  2. 階級ごとの売上合計(件数が多くても金額が小さければ、売上への寄与は小さい)
  3. 上位20%の案件が売上の何%を占めているか

3つ目が80%を超えていれば大口依存、40%前後なら小口分散と考えて差し支えありません。

同じ年商600万円を3パターンで並べる

年商600万円を、1件あたりの金額だけ変えて並べたものです。

モデル1件あたり年間の件数年商1件失注したときの影響
小口中心20万円30件600万円−3.3%
中口中心60万円10件600万円−10.0%
大口中心300万円2件600万円−50.0%

大口中心のモデルでは、1件流れた時点で年商が半分になります。これは営業の失敗ではなく構造の問題で、受注率をどれだけ上げても消えません。逆に小口中心なら1件の失注は誤差の範囲ですが、そのかわり30件ぶんの入口を毎年作り続ける必要があります。受注率そのものを上げる話は受注率の上げ方にまとめています。

件数が増えると、何がどれだけ増えるのか

小口に寄せたときのコストは、作業時間ではなく事務の回数として出ます。1案件あたり見積書・請求書・検収のやりとりで合計2時間かかるとして計算します。

モデル年間の案件数事務にかかる時間(1件2時間)大口中心との差
小口中心30件60時間+56時間
中口中心10件20時間+16時間
大口中心2件4時間—

小口中心は、事務だけで年56時間——1日8時間として丸7日ぶん——多くかかります。この差は請求できない時間なので、そのまま実質的な時間単価を下げます。小口を積む戦略を取るなら、見積書と請求書の定型化は好みの問題ではなく前提条件です。

必要な商談数も分布で変わる

受注率を30%として、それぞれのモデルに必要な商談数を出します。

モデル年間の受注件数必要な商談数月あたり
小口中心30件100件8.3件
中口中心10件34件2.8件
大口中心2件7件0.6件

小口中心では月8件の商談を作り続ける必要があり、これは営業専任がいない受託では相当な負荷です。一方で大口中心は月0.6件ですが、その1件の重みが大きいため、1件ごとの準備に時間をかけられます。月別の見込みを立てる方法は受託の売上予測のやり方を参照してください。

自社の単価分布を出す手順

特別な集計は要りません。過去12ヶ月の受注案件を金額順に並べるだけです。

  1. 受注済みの案件を受注金額の降順で並べる
  2. 階級に分ける(例: 〜30万円/30〜100万円/100〜300万円/300万円〜)
  3. 階級ごとに件数と売上合計を数える
  4. 上位20%の案件が売上の何%を占めるか計算する
  5. あわせて階級ごとの粗利率も出す

5番目を忘れないでください。金額の大きい案件ほど外注比率が高く、粗利率は逆に低いことがよくあります。その場合、売上の主力と利益の主力が別の階級にいることになります。粗利率の目安はWeb制作の粗利率の目安にまとめています。

分布を見たあとに取る3つの打ち手

分布のかたちごとに、効く打ち手は違います。

  1. 小口に偏っている場合:最低受注金額を決め、それ以下は定型パッケージにするか受けない。見積書と請求書のテンプレートを固定し、事務の1件あたり時間を削る。断る基準は受託で案件を断る基準が参考になります
  2. 大口に偏っている場合:失注と入金遅延への備えを先に作る。着手金や分割請求を契約に入れ、新規取引先は与信を確認する。並行して中口の案件を意識的に補充する
  3. 二極化している場合:小口はパッケージ化して受注の手間を下げ、大口は工程を分けて外注を組む。既存客からの追加案件は分布を安定させる効果があるので、リピート受注を増やす方法もあわせて回します

分布を出すための受注データをそろえる

ここからは自社製品の紹介です。単価分布は、受注金額と粗利が案件単位で残っていれば出せます。私たちが作っている Pipelia では、商談から受注すると案件が自動で作られ、案件ごとの金額・外注費・粗利率がそのまま残ります。金額順に並べ替えれば、その月の分布がそのまま見える状態になります。

Pipeliaの商談カンバン画面。ステージごとに商談が並び、確度と金額が確認できる
Pipeliaの粗利画面。案件別の粗利率と月次推移、平均粗利率が一覧で確認でき、粗利率20%未満の案件に警告が表示されている

登録もメールアドレスも不要のデモをdemo.pipelia.comに置いています。

よくある質問

最低受注金額は決めたほうがいいですか?

小口の件数が増えて事務に時間を取られているなら、決めたほうが効きます。決め方は、1案件あたりの事務時間と最低限確保したい粗利額から逆算します。ただし、最低金額を下回る依頼をすべて断るのではなく、範囲を絞った定型メニューとして受ける形にしておくと、既存客との関係を切らずに済みます。

大口案件が1件だけの状態は危険ですか?

売上の半分以上を1件が占めている状態は、その案件の遅延や失注がそのまま年間の数字になります。金額の大きさ自体が問題なのではなく、代わりが用意されていないことが問題です。着手金や分割請求で入金を前倒しにし、並行して中口の案件を補充しておくと、同じ売上構成でも持ちこたえられます。

単価分布はどのくらいの頻度で見ればいいですか?

四半期に1回で十分です。月次で見ると案件数が少なすぎて、たまたま大きい案件が入った月とそうでない月の差にしか見えません。過去12ヶ月を区切りながら四半期ごとに更新していくと、分布が小口に寄っているのか大口に寄っているのかの変化が読み取れるようになります。