見積もりを出したあとで「この案件、結局いくら残るんだろう」と気になることがあります。調べると「Web制作の粗利率の相場は◯%」という数字が出てきますが、自分の案件に当てはめようとすると、外注の使い方が違いすぎて合いません。
Web制作の粗利率とは、案件の売上から外注費などの直接原価を引いた粗利が、売上に占める割合です。結論から書くと、Web制作の粗利率を決めているのは外注比率です。売上のうち何%を外注に払うかが決まれば、粗利率はその残りになります。外注比率40%なら粗利率60%、外注比率70%なら粗利率30%。相場を探すより、自分の外注比率から逆算するほうが早く、正確です。
ただし粗利率だけを見ると判断を誤ります。全部自社でやれば粗利率は100%近くになりますが、自社の稼働時間が長ければ1時間あたりに残る額は小さくなります。粗利率と、粗利を自社の稼働時間で割った「実効時間単価」をセットで見るのが、受託で使える見方です。
この記事の要点
- 粗利率 = 1 − 外注比率。相場を探すより、自分の案件の外注比率から逆算するほうが早い
- 粗利率が高くても自社の稼働が長ければ実効時間単価は下がる。2つをセットで見る
- 案件ごとに粗利率が出ている状態にしておくと、値付けと受注の判断が数字で決まる

Web制作の粗利率はどう計算するか
計算式は2本だけです。
- 粗利 = 売上 − 直接原価
- 粗利率 = 粗利 ÷ 売上 × 100
受託の場合、直接原価にあたるのは「その案件のために外に出て行ったお金」です。具体的には次のものが入ります。
- 外注費(デザイン、コーディング、システム開発、ライティング、撮影、イラスト)
- その案件だけで使った素材費・フォントライセンス・有料プラグイン
- 交通費・宿泊費など、案件に紐づく実費
逆に、次のものは直接原価に入れません。入れてしまうと案件ごとの比較ができなくなります。
- 自分や社員の人件費(自社の稼働は、このあとの実効時間単価で見ます)
- 事務所の家賃、通信費、会計ソフトなどの固定費
- サーバー・ドメインなど、案件をまたいで使っているもの
自社の人件費を原価に入れるかどうかは、会社の会計処理としては分かれるところですが、案件の良し悪しを比べる目的なら入れないほうが扱いやすくなります。入れてしまうと、稼働時間の配賦という重い作業が毎回発生し、結局続かないからです。粗利の基本的な考え方は粗利管理のはじめ方にまとめています。
外注比率別の粗利率の早見表
売上100万円の案件を例に、外注比率ごとの粗利と粗利率を並べます。相場の調査ではなく、計算式に数字を入れただけの表です。自分の案件の外注費を当てはめれば、そのまま自分の粗利率になります。
| 外注比率 | 外注費 | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|
| 0%(全部自社) | 0円 | 100万円 | 100% |
| 20% | 20万円 | 80万円 | 80% |
| 30% | 30万円 | 70万円 | 70% |
| 40% | 40万円 | 60万円 | 60% |
| 50% | 50万円 | 50万円 | 50% |
| 60% | 60万円 | 40万円 | 40% |
| 70% | 70万円 | 30万円 | 30% |
| 80% | 80万円 | 20万円 | 20% |
見てのとおり、粗利率は外注比率の裏返しです。ここから読み取れることが2つあります。
1つは、粗利率を上げたいなら値上げか内製化の二択だということ。外注費を据え置いたまま粗利率を上げるには売上を上げるしかなく、売上を据え置くなら外注に出す範囲を狭めるしかありません。値上げの切り出し方は受託の単価を上げる方法に書いています。
もう1つは、外注比率が70%を超える案件は構造的に薄いということ。粗利30万円のなかから、自分のディレクション、打ち合わせ、修正対応、請求と回収の手間をまかなうことになります。制作をまるごと外に出す再委託型の案件がここに入りやすく、件数を積んでも手元が増えない原因になります。
粗利率だけで判断すると危ない理由
粗利率だけを追うと「全部自社でやるのが一番いい」という結論になりますが、実際はそうなりません。自社でやった分は、外注費ではなく自分たちの時間として出ていくからです。
先ほどの粗利60万円(売上100万円・外注費40万円)の案件で、自社の稼働時間を変えて実効時間単価を計算します。
実効時間単価 = 粗利 ÷ 自社の稼働時間
| 自社の稼働時間 | 実効時間単価 | 1人1ヶ月(160時間)換算の粗利 |
|---|---|---|
| 60時間 | 10,000円 | 160万円 |
| 100時間 | 6,000円 | 96万円 |
| 150時間 | 4,000円 | 64万円 |
| 200時間 | 3,000円 | 48万円 |
同じ「粗利率60%の案件」でも、60時間で終わるか200時間かかるかで、手元に残るスピードが3倍違います。ここを見ずに粗利率だけで案件を選ぶと、粗利率は高いのに月末にお金が残らない、という状態になります。
実務では、この2つを次のように使い分けると判断しやすくなります。
- 粗利率は、見積もりの段階で使う。外注費を積む前に「この構成だと粗利率は何%になるか」を確認する
- 実効時間単価は、納品後に使う。実際にかかった自社の時間で割り直し、次の見積もりの根拠にする
稼働時間の記録が面倒なら、まずは案件ごとに「何人日かかったか」をざっくり残すだけでも足ります。1人日を8時間で換算すれば実効時間単価は出ます。案件の詰め込みすぎを防ぐ考え方は受託の稼働管理のやり方も参考にしてください。
粗利率が想定より下がる4つの原因
見積もり時の粗利率と、終わってみたときの粗利率がずれる原因は、だいたい次の4つに収まります。
- 無償で受けた仕様変更。追加のページ、デザインの作り直し、機能の追加を「これくらいなら」で受けると、売上は変わらないまま外注費と自社の時間だけが増えます。対処は受託の仕様変更・追加対応の管理に書きました
- 積算の漏れ。テスト、修正対応、ブラウザ確認、納品後のレクチャーを見積もりに入れていないと、そのぶんがまるごと粗利から引かれます。積算の項目立ては受託の見積もりの作り方を参照してください
- 外注費の後出し。発注時に金額を確定させず、請求が来てから判明するケースです。1案件に複数の外注先が入ると、合計がいくらになっているか誰も把握していない状態になりやすくなります。防ぎ方は外注管理の方法にまとめています
- 値引き。最後の詰めで10%引くと、外注費が固定なので粗利は10%以上減ります。売上100万円・外注費40万円の案件を10万円引くと、粗利は60万円から50万円になり、粗利率は60%から約55.6%に落ちます
4つとも、起きたこと自体より「終わるまで気づかない」ことが問題です。発注のたびに外注費が積み上がり、案件の粗利がその場で更新される形にしておくと、途中で気づけます。
自分の粗利率の目安を決める4ステップ
他社の平均値を目標にしても、外注の使い方が違えば意味がありません。自分の数字から決めます。
- 直近10件の粗利率を出す。売上と外注費だけあれば計算できます。エクセルやスプレッドシートで作る場合はエクセルで粗利管理表を作るの数式をそのまま使えます
- 中央値を見る。平均だと大口の1件に引っ張られるので、10件を粗利率順に並べて真ん中の値を基準にします
- 下位3件の原因を書く。前章の4つのどれに当たるかを1行ずつ書きます。原因が偏っていれば、そこが改善点です
- 下限を1つ決める。「粗利率◯%を下回る見積もりは出し方を変える」という線を引きます。中央値より10ポイント下あたりが現実的で、下回る案件は値上げ・範囲縮小・自社工数を減らすのいずれかで調整します
下限を決めておくと、忙しいときに反射で受けてしまう案件を止められます。断る基準の作り方は受託で案件を断る基準に書いています。
案件別の粗利率を自動で出す仕組み
ここからは自社製品の紹介です。私たちが作っている Pipelia は受託事業者向けのSFA/CRMで、受注した案件と、その案件に紐づく発注(外注費)が同じデータでつながっています。発注を登録した時点で案件の粗利と粗利率が更新されるので、集計をしなくても今の粗利率が分かります。粗利率が20%を下回った案件には警告が出ます。

デモは登録もメールアドレスも不要で、案件別の粗利率がどう出るかをそのまま触って確認できます。なお、案件をまたいだ稼働時間の配賦や工数原価計算が必要な規模であれば、その用途に特化したツールのほうが向きます。
よくある質問
Web制作の粗利率は何%あればいいですか?
一律の正解はありません。外注比率で粗利率がほぼ決まるため、全部自社で作る体制と、制作を外部に出す体制では比べる意味がないからです。自分の直近10件の粗利率を出して中央値を基準にし、そこから10ポイント下あたりを下限として引くのが現実的です。他社の平均値ではなく、自分の数字の分布から決めてください。
粗利率と利益率は同じですか?
違います。粗利率は売上から直接原価(受託の場合は主に外注費)だけを引いた段階の比率で、家賃・通信費・会計ソフト代などの固定費は引かれていません。固定費まで引いたものが営業利益率です。案件ごとの良し悪しを比べるときは粗利率、会社として黒字かどうかを見るときは営業利益率、と使い分けます。
外注を増やすと粗利率は必ず下がりますか?
売上が同じなら下がります。ただし外注で空いた自社の時間で別の案件を回せるなら、会社全体の粗利額は増えます。判断の基準になるのが実効時間単価で、粗利を自社の稼働時間で割った額が上がっているなら、粗利率が下がっていても悪い選択ではありません。粗利率と実効時間単価の両方を見て決めてください。
