「そういえば、知り合いの会社がサイトのリニューアルを探しているらしいですよ」。納品から数ヶ月経った顧客との雑談で、こういう話が出ることがあります。受託でいちばん決まりやすいのは、この一言から始まる案件です。それなのに、多くの場合は「機会があればぜひ」で終わり、その後どうなったか分からないまま流れていきます。

結論から書くと、紹介が増えるかどうかを分けるのは人柄でも運でもなく、紹介してもらいたい相手像を言葉にして伝えているか、そして出てきた紹介を営業リストに載せて追えているかの2点です。「いい話があればお願いします」は、相手にとって何をすればいいのか分からない依頼なので、善意があっても動きようがありません。

紹介営業とは、既存顧客・過去の取引先・協力会社などの人づてで新しい見込み客を紹介してもらい、そこから受注につなげる営業手法です。飛び込みやフォーム営業のような新規開拓と違い、相手の信頼を借りた状態から始まるため、初回接触の突破率と受注率が高くなりやすいのが特徴です。

この記事の要点

  • 「お仕事があれば」ではなく、業種・規模・困りごとの3点で「紹介してほしい相手像」を1文にして伝える
  • 頼むのは納品直後〜1ヶ月以内など相手が成果を実感した場面で、その場で1回だけ軽く言う
  • 紹介が出たらその日のうちに営業リストへ登録し、24時間以内に初回連絡、結果は受注・失注どちらでも紹介者に返す
紹介営業を仕組みにする5つの手順を示した図。相手像を1文にする、頼む場を決める、当日リスト登録、24時間以内の初回連絡、結果を紹介者に返す、の順に進むと次の紹介につながることが確認できる

紹介が生まれない3つの理由

受託事業者に紹介が来ないのは、仕事の質が低いからとは限りません。だいたい次の3つのどれかです。

1. 何を紹介してほしいのか伝えていない

「お仕事があればぜひ」とだけ伝えられた相手は、自分の人脈の中から誰を思い出せばいいのか判断できません。逆に「採用サイトを作り直したい50〜200名くらいの会社」と具体的に伝えられていれば、条件に合う会社に出会ったときに記憶が呼び出されます。紹介は相手の記憶に検索キーを置いておく作業です。

2. 頼むタイミングが遅い

多くの人は、案件が切れて売上が不安になったときに紹介を頼みます。しかしそのタイミングは、相手の中で自分の仕事の記憶がいちばん薄れている時期でもあります。紹介が出やすいのは、納品直後や、相手が成果を実感した瞬間です。

3. 紹介された後の動きが遅い

紹介はその場の勢いで生まれるので、返事や初回連絡が遅れると、紹介した側の顔が立たなくなります。一度そうなると、次の紹介はまず来ません。紹介が「怖い」チャネルになってしまう原因は、たいていここにあります。

紹介を頼む相手はどう選ぶか

紹介は誰にでも頼めるものではなく、頼みやすさと確度に差があります。次の表は、受託でよくある相手ごとの特徴と、声をかけるタイミングの目安です。

頼む相手紹介の出やすさ声をかけるタイミング
納品を終えたばかりの顧客高い納品直後〜1ヶ月以内、成果を確認したとき
継続取引のある顧客高い定例や更新の打ち合わせの終わり
協力会社・外注先中〜高一緒の案件が無事終わったとき
同業だが領域が違う事業者中自社で受けられない相談が来たとき(相互紹介)
過去に取引が途切れた顧客低〜中近況連絡のついでに軽く
失注した見込み客低失注から数ヶ月後、関係が良好な場合のみ

見落としやすいのが協力会社と同業者です。デザインが専門なら開発が必要な相談、開発が専門ならデザインが必要な相談が、遅かれ早かれ出てきます。自社で受けられない相談を回し合う関係は、片方向の「お願い」にならないぶん長続きします。

頼む相手を選ぶときは、案件の粗利も一緒に見ておくと判断しやすくなります。値引き前提の付き合いが続いている相手からの紹介は、同じ条件の案件が来やすいためです。案件別の粗利の見方は粗利管理のはじめ方にまとめています。

紹介の頼み方——角が立たない4つの型

紹介を頼むのが気まずいのは、「仕事をください」と言っているように聞こえるからです。相手の負担を下げる形にすると、切り出しやすくなります。

型1: 条件を具体的に伝える

いちばん効くのがこれです。業種・規模・困りごとの3点を挙げます。

もし今後、採用サイトを作り直したいという会社さんに出会うことがあれば、思い出していただけるとうれしいです。50〜200名くらいの規模で、更新を社内でやりたいという相談が得意です。

型2: 紹介ではなく「相談先」として置いてもらう

「紹介してください」より「困っている人がいたら名前を出してもらって構いません」のほうが、相手の心理的負担が軽くなります。責任を負わせない言い方です。

ご相談だけなら無料でお受けしているので、周りで迷っている方がいたら気軽に名前を出していただいて大丈夫です。

型3: 納品直後に、成果とセットで頼む

相手が結果を実感しているタイミングは、いちばん言葉が出やすい瞬間です。

問い合わせが増えたとうかがえてよかったです。もし同じようなことで困っている会社さんがいらっしゃったら、お声がけいただけると幸いです。

型4: 相互紹介として持ちかける

協力会社や同業には、一方通行にしない形で提案します。

うちで受けきれないシステム側の相談が来ることがあるので、その時はお声がけしてもいいですか。逆にデザインの相談があれば、いつでも投げてください。

どの型でも共通するのは、その場で1回だけ、軽く言うことです。繰り返し頼むと催促になります。関係を保ちながら接点を続ける考え方は見込み客の追客のやり方が参考になります。

紹介を仕組みにする5つの手順

紹介は「運良く来るもの」に見えますが、頼む機会と受けた後の動きを決めておけば、量も確度も安定します。

  1. 紹介してほしい相手像を1文で書く。業種・規模・困りごとの3点で書き、社内やチームで同じ文を共有します。この1文がないと、型1が使えません。
  2. 頼むタイミングをルール化する。「納品報告のとき」「定例の最終回」「協力会社との案件が終わったとき」など、既にある会話の場に紐づけます。思い出したときに頼む運用は続きません。
  3. 紹介が出たらその日のうちに営業リストへ登録する。紹介者の名前、聞いた内容、緊急度をセットで残します。集める項目は営業リストの作り方を参照してください。
  4. 初回連絡は24時間以内に出す。紹介者の顔が立つかどうかは、ここでほぼ決まります。内容が固まっていなくても、まずお礼と日程調整の連絡だけ先に出します。
  5. 結果を紹介者に返す。受注しても失注しても、一言報告します。報告が返ってきた相手には、次も紹介しやすくなります。逆に何も返さないと、そこで紹介の流れは止まります。
Pipeliaの営業リスト画面。優先スコアと再連絡アラートで今日連絡すべき見込み客が上位に並び、架電・メール・フォーム営業の履歴が確認できる。

手順3と4は、紹介が来た瞬間に他の案件で手が塞がっていると崩れます。「登録して、期日を入れて、リストで思い出す」までを1か所でやれる状態にしておくのが現実的です。既存顧客からの追加案件を取りこぼさない考え方は、リピート受注を増やす方法も参考になります。

紹介案件で気をつけること——値引き圧力と条件の曖昧さ

紹介案件は決まりやすい反面、条件があいまいなまま進みやすいという弱点があります。

紹介者への義理から値引きを飲んだり、「知り合いだから」と見積書を省いたりすると、粗利が薄い案件が積み上がります。受託は稼働が埋まっている限り売上は立つので、粗利率で見ないと問題に気づくのが遅れます。

対策はシンプルで、紹介案件でも通常案件と同じ手順で見積もりを出すことです。積算の考え方は受託の見積もりの作り方で解説しています。そのうえで、案件別の粗利率を見て、紹介経由の案件が他より低くなっていないかを定期的に確認します。

Pipeliaの粗利画面。案件別の粗利率と月次推移が表示され、粗利率20%未満の案件が警告として示されている。

もう一つの注意点は、紹介者と発注者が別であることです。紹介者に配慮するあまり、発注者との間で決めるべき納期や検収の条件が後回しになることがあります。誰が決裁するのかを初回で確認しておくと、後の手戻りが減ります。決まりかけた案件が止まる原因は受注率の上げ方でも扱っています。

紹介の履歴を顧客情報として残す

ここからは自社製品の紹介です。ここまでの手順はスプレッドシートでも組めますが、紹介案件は発生が不定期なので、「登録する場所」と「思い出す仕組み」が別々だと抜けやすくなります。Pipeliaでは、紹介で聞いた会社をその場で営業リストに登録すると、優先スコアと再連絡アラートで「今日連絡すべき相手」として上に並びます。商談化すればカンバンに移り、受注すると案件が自動で作られ、外注費を入れれば案件別の粗利率までつながるため、紹介案件だけ粗利が薄いといった傾向も同じ画面で確認できます。

よくある質問

紹介を頼むと「仕事がないのか」と思われませんか?

頼み方によります。「仕事をください」と受け取られるのは、条件を伝えずに依頼だけした場合です。「こういう相談が得意なので、該当する方がいたら名前を出してもらって構いません」という伝え方であれば、営業というより自己紹介の延長として受け取られます。頻度を空け、1回で軽く済ませるのがコツです。

紹介してくれた相手に紹介料を払うべきですか?

受託の現場では、金銭を伴わない相互紹介のほうが一般的です。紹介料を設定すると、相手側の社内規程や利益相反の問題が出ることがあり、かえって紹介しにくくなる場合があります。まずは結果の報告と、逆方向の紹介で返す形から始めるのが無理がありません。支払いを伴う形にする場合は、条件を書面で明確にしておきます。

紹介案件と新規開拓は、どちらを優先すべきですか?

紹介は確度が高い一方で、発生をこちらでコントロールできません。紹介だけに頼ると、案件の谷が読めなくなります。フォーム営業やメールのような自分で量を作れる活動と併走させ、紹介はそこに上乗せする位置づけにするのが安全です。営業活動をどの指標で管理するかは受託の営業KPIの決め方で扱っています。